Artist File vol.2 造形作家・有田依句子



どういう経緯で造形作家としての活動を始めたのでしょうか。

元々は映像作家志望で、専門学校で映像を学びました。学生当時、世の中はまさにインターネット黎明期で、在学中にWebコンテンツ制作会社でバイトを始め、紆余曲折あり卒業後もその会社でWebコンテンツ制作に従事していました。Web制作もクリエイティブな仕事なのですが、デリートボタンひとつで作ったものが一瞬にして消えてしまうことに違和感を覚え、「手に取ることができ、形に残るものが作りたい」と思うようになりました。
その頃から少しずつ石粉粘土を使った立体作品の制作を独学で始めるようになりました。

専門学校や大学で立体作品を学んでいたというわけではなかったんですね。

文字通り独学で、仕事の合間に習作を作り続けるという感じでしたので、人様に見せられるレベルに達するまでにはすごく時間がかかりました。また、制作を始めてから数年後にWeb制作関係のフリーランスとして独立したのですが、独立後2〜3年間は仕事の方が精一杯で制作を一時中断していました。

その後、制作を再開したきっかけというのは?

中断している時も、「形に残るものが作りたい」という思いは消えず、再び制作を開始し、2009年頃から自分のWebサイトで少しずつ発表するようになりました。現在のように展示活動を行うようになったのは、2010年の2月にひょんなことから根津のギャラリーKINGYOさんのグループ展に参加させていただいたことがきっかけです。あの展示への参加がなければ今でもWebサイトだけで発表しているか、または制作活動自体を止めていたかもしれません。

立体作品という表現方法を選んだ理由はなんでしょう。

なぜ平面ではなく立体なのかという質問はよくされるのですが、まずデッサンに凄く苦手意識があり、描くこと自体は好きなのですが自分の絵にまったく自信がないというのがあります。立体のものを平面で表現するという技術がまったくないため、描けば描くほどデッサンが狂っていってしまうんです。そんな拙いものを人様にお見せすることはできないし、喜んでももらえないだろうと思うのですが、立体作品ならばデッサン云々以前に、歪みやおかしな部分があった時点で作品として成り立たないと思うので、デッサンのできない私でも狂いようがないだろう、少しは人様にお見せできるレベルのものが作れるだろうと思い平面ではなく立体を選んだというのがあります。不思議な理屈だとよく言われます。

意外な理由でした(笑)。作風というか、作品の方向性は当初から定まっていたのでしょうか?

手に取ることができるもの、形に残るものを作りたいと思うようになった頃、自分が何を作りたいのか、自分は何を作れるのか、来る日も来る日も考えていました。色々と調べて考えて、一時は江戸玩具の職人さんに弟子入りしようと思い、ご自宅を訪ねたこともあります。子どもの頃からガラスや陶でできた小さな人形や動物をコレクションしたり、浅草の江戸玩具の専門店「助六」さんに売っているような細かい細工の小さな作品に親しんできましたので、自然と立体の小さい作品、長く愛玩してもらえるような作品に行きついたんだと思います。

どちらかというと、芸術というよりは工芸寄りな…動物をモチーフにした作品が多いのもその影響でしょうか?

抽象ではなく人間や動物といった具象を作りたいと思ったのは、江戸玩具などの影響もありますが、身近な友人がビスクドールの創作を行っていたことや、チェコの人形アニメーションなどが好きで、元々映像作家志望だったこともあり、ゆくゆくは人形アニメーションを作ってみたいという壮大な夢を描いてしまったというのもあると思います(笑)。

石粉粘土を使って制作されていますが、その素材を選んだ理由などは。

人の形が作りたい、動物が作りたいと思った時に、布を縫製したり、木を切ったり彫ったりという選択もあったと思うのですが、不器用で大雑把なわりにミリ単位のズレが気になるタイプなため、縫製も木彫も無理だと思いました。ミシンで布をまっすぐ縫うことも、木をまっすぐ切ることもできないんです。できないわりにミリ単位の狂いが気になってしまうので、精神衛生的にもよくないなと思いました。布も木も駄目だと思った時に思い浮かんだのが石粉粘土でした。専門学校の授業で一度扱ったことがあり、その時になんとなく自分の手に馴染むものがあったので覚えていたんだと思います。

有田さんの性格的に合っていたと。

消去法で石粉粘土を選んだ感もありますが、布も木も一度失敗したら元に戻りませんが、石粉粘土は削ったり、逆に足りない部分に粘土を足して納得のいくまで形を整えることができますので、不器用なわりに細かいところが気になる自分にしっくりくる素材だと思います。

Photo by Yousuke Tsuyuki
作品を作る際、意識していることなどはありますか?

独学で作り始めた作品ですので、人様の鑑賞に耐えうるものかどうかがまず基本にあります。人知れず、誰にも見せることなく習作を作り続け、ようやく自分の中でどうにかこうにか人様に見ていただいてもOKかなというレベルに達した頃に、Webサイトで発表するようになりました。

その次に意識したのは、人に喜んでもらるものかどうかでした。少しでも多くの方に作品を見ていただきたいと思いながら制作しているのですが、独学で経験も浅い自分の作品を見ていただけるだけでもとてもありがたいことですので、せめて見てくださる方に喜んでいただければと思いながら作り続けてきました。

現在は個展も経験していますが、何か変化はありましたか。

ありがたいことに、私の作品は「可愛い」「癒される」と評価していただくことが多く、少しは楽しんでいただけているのかなと思っています。しかし、作家活動を続けているうちに、ついついそれ以上のことを求めるようになってきました。喜んでいただくことはもちろんなのですが、もっとシリアスなテーマを扱いたい、もっと深い内面を表現したいといったような欲が出てきてしまいました。そういった作品はともすれば自己満足に陥りがちになってしまいますので、これまで通り楽しく可愛く、パッと見をキャッチーにして、そこから先にもう一歩深く踏み込んでいただけるような作品を作りたいと日々試行錯誤しています。

Photo by Yousuke Tsuyuki
作品を購入してくれた方へ、何かありますか?

作品は完成した時点で、自分が作った物でもなく、独立した人格を持つ一人の人物として見ています。大袈裟にいうと一つの世界、宇宙を持った一人の人として感じています。なので購入していただいた後、作品の皆さんはどうされているかなと考えることもあります。オーナーの方には末永く楽しんでいただければ、可愛がっていただければと思っていますし、そのように大切にしていただける作品を作れればと思っています。

最後に、今後作ってみたいもの、挑戦したいことなどあれば教えてください。

作っていきたいものも挑戦したいこともたくさんあります。野望が多過ぎて、いくつ着手できるのか、いくつ実現できるのか不明です(笑)。時間がまったく足りない感じです。

当面は、パッと見て可愛い、購入しやすいクラフト的な作品を数多く作り、数多く売っていくのと、作家性のある作品をグループ展等で発表するという両輪でやっていければと思っています。お待たせしているオーダー作品もあるので、そちらも制作しつつ、オーダーは今後も受注していきたいと思っています。また、ワークショップにも以前から興味があり、8月に母校の小学校と大田区の施設で小学生を対象にした粘土教室を実施しました。今後もワークショップは機会があればどんどん行ってきたいと思っています。


ヒヨコ

1,296円(税96円)

子ぶた

1,296円(税96円)

子カバ

1,296円(税96円)


他の作品も見る

Artist File Vol.2

造形作家・有田依句子
Artist File Vol.1

写真家・花輪奈穂